ネコとの暮らし、その続き
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猫がうちに来て2週間。

仕事から帰り玄関を開けると、2階から「にゃーんにゃーん」と聞こえて来る。部屋のドアを開けるとまとわりついて帰りを喜んでくれる。ブラシを持って呼ぶと気持ちよさそうにブラッシングに応じてくれる。

試しにダンボールの切れ端を置いておくと、全くの無視。ネジ式のネズミも冷ややかな目で見るだけ。猫じゃらしはその時の気分だが、ほとんどの場合無視される。

パソコンを始めるとキーボードに座ろうとする。退けると離れたところで私を睨む。ソファーのカバーで爪をとぐ。オナラがかなり臭い。用を足した後の足も毎回臭う。その足で私の枕元で寝る。時々噛み付くのは餌が無い時だと最近になって気がついた。

要するに、猫がいる事で自室での生活が猫に染まっている。可愛くて可愛くて仕方ないのだけど、これが一時的な感情なのか、ずっとそうなのかはまだ自信がない。外泊していても猫のことが気になって仕方がない。

飼い主が現れるにしても自分で飼うにしても、この子の健康状態を見ておきたい。週末に動物病院に連れて行くことにした。

前回断られた病院に行くのも気が引けたので、別の病院に連れて行くことにした。前回車で連れ出した時は野菜出荷用のカゴに蓋をして行ったのだが、恐ろしすぎたのかおしっこをちびっていた。何かいい方法はないかと探したら、洗濯ネットにぶち込むというキーワードが出てきた。手荒な気もしたが、獣医もそう推奨しているようなのでその手を使うことにした。

猫は大人しくネットに入ったものの、可動域が減ったことで嫌がり鳴きはじめた。それでも暴れることはなく、私にとっても安全な移送方法であると感じた。

週末の病院は沢山の人と動物で賑わっていた。私にとって初めての体験でドキドキする。とりあえず猫を車に置いて受付に行く。

『初診です。猫を保護してしまって診てほしいですがどうしたらいいですか?』

すると、忙しそうな受付の女性が『こちらは始めてですか?』と聞いてきほた。

(ん?さっき初診って言ったし)

『はい、初診です』

そう答えると、『他の子を連れてきたことは無いのですね。それではこちらに記入をお願いします。』と言われた。

なるほど、今まで自分の用事でしか病院に行くことがなかったけど、多頭飼いの人だと他の犬や猫を連れて行ったこともあるわな。妙に納得。

問診票に猫を保護することになった経緯、飼い主を探しているが未だ見つからないこと、家族として迎え入れるにしてもとりあえず全身状態を見てもらいたいことを書いた。すると、フードコートで渡される呼び出しの機械を渡されて待つことになった。よかった。車で待つことができる。周りは立派な猫用の入れ物に入った猫や紐に繋がれ大人しくしている犬ばかりの中、うちの猫だけ間抜けな洗濯ネットに入れられたままモゴモゴにゃーにゃー言いながら待合室で待たされると思っていたのだ。

30分ほどでベルが鳴り、再び猫をネットに入れた。クリニックに入るとすでに診察室を開けてスタッフが待っていてくれた。ネットから出し台に乗せた。猫はさほど驚く様子もなくじっとしている。体重を測り、歯の状態を見る。うちに来てからものすごい勢いで餌を食べ続けていたからか、体重は家で測ったより1キロ近く増えていた。

お腹もたるんでいる様子はないし、乳首の状態から子を産んだ事はない。という私の予想は当たった。しかし、プロの目で見ると猫はだいたい2歳、そして既に避妊手術が施されていることがわかった。

飼うことを前提にすると、避妊手術をしてある事はよかった。金銭的な問題もあるが、自らの勝手で猫の生殖能力を取り上げてしまう事にも少し引っかかるものがあったからだ。しかし、これで確実に飼い主がいた事がわかった。耳を切られた地域猫ではなく、ちゃんと家で飼われていたのだ。

他にも栄養状態をみるのに採血や検便も期待していたのだが、先生はもう少し時間が経ってからの方がいいと教えてくれた。とりあえずノミ避けの薬を使ってもらい、2週間後に再診する事になった。

家に帰り玄関でネットから出してやると、猫は一目散に私の部屋に上がっていった。私の部屋は、すでに猫の安全地帯になっているのだ。しかし飼い主の事を想うと、心が痛む。何があって離れ離れになったのかわからないが、飼い主もこの猫と最後まで一緒にいようと覚悟を決めていたはずだ。そうであって欲しい。

それから、もう少し範囲を広げて飼い主を探すことにした。動物愛護センターや隣の市の保健所にも問い合わせてみたが、未だ飼い主が探していると言う情報は出てこない。猫友にマイクロチップの存在を教えてもらったが、どうやら住所や名前の情報が記録されているだけでGPSがあるわけではなさそう。iPhone のように居場所がわかるわけではないのだ。今度病院に行ったらこの子にチップが入っているのかどうか調べてもらいたい。

ゴミステーションに貼ったポスターを見た近所の人が声をかけてきてくれた。知り合いに猫を飼いたい人がいるので里親になれないか、という事だった。

一瞬考えたが、今の時点ではどう考えても答えはノーだった。飼い主の元に猫を返してあげたいし、その為にできる事がまだもう少しある気がしたからだ。そうしているうちに、両親も猫を溺愛してくれるようになればいいのにという希望もある。

ともあれ、そろそろ名前を付けることにした。旅好きの私の元にきた彼女を、『ぼん』と名付けた。フランス語の「ボンボヤージュ」=「良い旅を」からとってぼんちゃん。『ボン』には『良い』という意味がある。よって日本名で言うなら『良子』となるだろうか。良子でもよさそうだが、ぼんちゃんの方が私は気に入っている。いつか一緒にキャンプでも行きたいところだが、部屋から一歩も出ようとしない彼女にとってはまだまだ道のりは遠い。しばらくは猫と旅ではなく、猫に旅したい。伝わるかなこれ。

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